証券取引等監視委員会 | 債権流動化取引の研究① ― 証券取引等監視委員会の勧告事例を題材として

2017年7月1日作成



証券取引等監視委員会は、2016年6月7日、リーディング証券株式会社の検査結果を発表しました。本稿は、この証券取引等監視委員会の検査事例において発見された解釈相違を題材に、債権流動化取引の理解を深めることを試みています。



1.証券取引等監視委員会の勧告事例: 取引概要

取引の概要は次ぎの通りです。診療報酬債権等を投資する目的で、ジェイマース1号及びジェイマース2号が設立され:


  1. 病院は保有する診療報酬債権をジェイマース2号に譲渡します。
  2. ジェイマース2号は保有する診療報酬債権をジェイマース1号に譲渡します。
  3. ジェイマース1号は保有する診療報酬債権を銀行系SPCに譲渡します。

このように各取引関係者が譲渡取引を繰り返すことで、各取引関係者は各譲渡取引での譲渡代金差額を負担します。さらに、銀行系SPCを最優先、その後にジェイマース1号、ジェイマース2号、そして病院と続く優先劣後構造が出来上がります。これにより、それぞれの取引関係者がリスクに応じた最適な資金調達を行うことで資金コストの最適化を図ります。



なお、取引概要は、証券取引等監視委員会が公表した情報のみならず、関係者が実際に締結した契約書、関係者が作成した各種書面等を確認のうえ記載しています。



2.証券取引等監視委員会の勧告事例: (資産の)二重計上

証券取引等監視委員会の勧告は、ジェイマース2号とジェイマース1号の間の取引(上記②)について、「JM1【著者注:ジェイマース1号】に売却した診療報酬債権等については、引き続きJM2【著者注:ジェイマース2号】においても資産として計上している。」と指摘しています。また、参考資料で当該取引を「二重計上」と表現しています。



3.証券取引等監視委員会の勧告事例: 金融資産消滅の判定

さて、金融商品に関する会計基準第8項は、財務構成要素アプローチに基づき、金融資産の契約上の権利を行使したとき、権利を喪失したとき、又は権利に対する支配が他に移転したときに、当該金融資産の消滅を認識すると定めます。債権譲渡の場合は、支配の移転したときに消滅を認識することになります。


財務構成要素アプローチ: 金融資産を構成する財務的要素(財務構成要素)に対する支配が他に移転した場合に当該移転した財務構成要素の消滅を認識し、留保される財務構成要素の存続を認識する方法 (つまり、金融資産は分割可能と考え、支配が移転した財務構成要素は消滅を認識し、そうではない構成財務要素は存続する方法)


また、介護事業者が金銭を受領した段階で相殺可能となることより、その前に介護事業者が破綻する場合、偏頗行為と見做されて貸金登録事業者等の回収が否認される可能性があります。さらに、債権の譲渡がないことより、その債権譲渡取引は貸金と見做される可能性があり、その場合には、(x)貸金業法、(y)利息制限法、及び(z)出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(いわゆる“出資法”)の規制対象となると考えられます。


次ぎに、金融商品に関する会計基準第9項は、金融資産の契約上の権利に対する支配が他に移転するのは次の三要素がすべて満たされた場合とします。

要件①: 譲渡された金融資産に対する譲受人の契約上の権利が譲渡人及びその債権者から法的に保全されていること

要件②: 譲受人が譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受できること

要件③: 譲渡人が譲渡した金融資産を当該金融資産の満期日前に買戻す権利及び義務を実質的に有していないこと(譲渡金融資産が市場で容易に取得できないもので、かつ、買戻価格が固定価格であるも)


ジェイマース2号は、ジェイマース2号とジェイマース1号の間の取引(上記②)について:

(a) 債権譲渡契約書に表明保証違反に基づく買戻しの定めがあること、

(b) 譲渡対象債権に将来債権が含まれていること、将来債権は医療行為が行われることを条件とし債権の発生が確実ではないこと、構成比率が常時変動するので分離が不可能なこと

から、要件③を満たしていないと解釈しています。当該解釈に基づき、債権の消滅を認識しない会計処理(いわゆるオンバランス処理、ファイナンス処理)を行っています。



4.証券取引等監視委員会の勧告事例: 証券取引等監視委員会の見解 - 二重計上

ジェイマース2号の判断とは異なり、証券取引等監視委員会は、理由は明らかにされていませんが、債権の消滅、つまりオフバランス処理が妥当と考えています。ここで注目に値するのは、必ずしも明確に判断できる訳ではない会計処理の解釈相違が、その解釈根拠を示さずに、証券取引等監視委員会の勧告において、金融商品取引業者の処分事由を構成していることです。本勧告事例のオフバランス処理など会計処理にはある程度の裁量の余地が残るため、金融商品取引業者は、回避不可の制度リスクの存在を認識する必要があります。


なお、証券取引等監視委員会の勧告事例ではオンバランス処理を「(資産の)二重計上」と表現していますが、他では馴染のない表現より、誤用と考えられます。

解釈の相違について、証券取引等監視委員会に進言していますが、現在までのところ連絡はありません。


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この勧告事例は、証券取引等監視委員会の興味深い見解が他にも示されています。これらは機会を改めて取り上げます。