信託勘定をヴィークルとして用いた資産流動化取引 | いわゆる「償還スキーム」の概要

2017年11月18日作成



信託勘定を資産流動化取引のヴィークルに用いる取引が存在します。取引例は次ぎの通りです。


  1. 委託者兼受益者は保有する資産を信託設定します。
  2. 受託者は、信託財産を裏付けに優先受益権及び劣後受益権を設定します。
  3. 受託者は、信託財産を引当てとして信託勘定で借入を行います。
  4. 受託者は、借入金により優先受益権を償還します。

この場合、信託勘定借入は信託財産に対して直接の請求権を有し、信託財産処分金に対する請求権を有する受益権との間には、信託契約が途中で解除されないことを条件に優先劣後関係が成り立ちます。



信託契約が途中で終了するリスクについて、次ぎのとおり、詐害信託に該当する場合を除き、現信託法では解消されたと解されます。

「詐害信託」の取消し又は否認

  • 委託者がその債権者を害することを知って信託をした場合には、受託者が債権者を害すべき事実を知っていたか否かにかかわらず、債権者は、受託者を被告として、取消しを裁判所に請求することができます。(信託法第11条第1項)
  • ただし、受益者が現に存する場合において、その受益者の全部又は一部が、受益者としての指定を受けたことを知った時又は受益権を譲り受けた時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りではありません。(信託法第11条第1項但し書き)

「受益者破綻時の信託契約終了」のリスク

  • 旧信託法下では、受益者が1人の場合、受益者の事情により、信託解除が行われる可能性があること規定していました。[1] [2]
  • 現在の信託法は当該信託解除の可能性が解消されたと解されています。(信託法第165条[3]



信託勘定は資産流動化取引のヴィークルとして利用可能と考えられ、幾つかの案件[4]が確認されています。信託は、原則受益者課税とされ、特別目的会社と匿名組合を用いた取引とは異なる、任意組合に似た税務取扱いが可能なヴィークルで、旧来からの信託のほか、SPCを受託者とする自己信託を用いることで、様々な取引設計が可能になると想定されます。




[1] 「受益者カ信託利益ノ全部ヲ享受スル場合ニ於テ信託財産ヲ以テスルニ非サレハ其ノ債務ヲ完済スルコト能ハサルトキ其ノ他已ムコトヲ得サル事由アルトキハ裁判所ハ受益者又ハ利害関係人ノ請求ニ因リ信託ノ解除ヲ命スルコトヲ得」(旧信託法第58条)

[2] 旧信託法下では、複数の受益者を設けることで信託解除のリスクを回避していました。

[3] 信託法第165条第1項は「信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により、信託を終了することが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして受益者の利益に適合するに至ったことが明らかであるときは、裁判所は、委託者、受託者又は受益者の申立てにより、信託の終了を命ずることができる。」と規定し、特別の事情のある場合に限って適用されることが明記されました。検討対象とする信託勘定借入を伴う信託では、(x)受益者の破綻が「信託行為の当初予見することのできなかった特別の事情」には該当しないと解され、また(y)途中で信託を終了することが信託の目的に反すると解されます。

[4]金銭債権を信託財産とする信託Asset-backed Loan取引が、格付取得に伴い、複数案件が確認されています。また、株式会社日本格付研究所(“JCR”)は、新信託法施行後の格付レポートで、「07年9月以前の旧信託法では、単一の受益者しかいない場合、受託者や信託債権者等が関知し得ない当該受益者側の事情のみによって信託の解除が行われ、信託ABLの債権者に不測の損害(換価によるディスカウント等に起因する損害)が発生してしまうおそれが懸念されていた(いわゆる「58 条リスク」)。この点につきJCRでは、旧58条の解除の要件が07年9月施行の新信託法の下では限られた要件に改められたことなどから、一般に信託ABLの債権者と受益者間での利益相反が著しいと判断される事例を除き、当該信託解除リスクは限定的であるものと判断している。」ことを述べています。


関連記事

プロジェクト概要

特別目的会社(“SPC”)を自己信託の受託者とする自己信託SPCを投資ヴィークルに用いることを検討します。

プロジェクト概要

改正信託法は、信託契約に基づく信託、自己の意思表示に基づく信託を規定します。許認可の観点からの分類と利用方法の傾向を検討します。