介護給付費債権 | 介護給付費債権の性質 ― 介護給付費債権の債権者は誰か 介護給付費債権譲渡取引のリスク

2017年7月1日作成



介護保険法に基づく介護給付費債権は、診療報酬債権と同様に、一部の貸金業登録業者等が債権譲渡取引に応じています。しかしながら、債権者の解釈が確定している診療報酬債権と異なり、介護給付費債権は解釈が定まっていません。

1.介護給付費債権の概要

診療報酬債権の債権譲渡取引と同様に、介護事業者から債権譲渡通知が行われる場合に、国民健康保険団体連合会は譲受人に対して弁済を行っています。




しかしながら、介護保険法は、介護給付費に関連して、介護給付費の債権者を被保険者(第41条第1項)、介護給付費は譲渡又は質入れができない(第25条)と規定します。また、介護事業者による代理受給(第41条第6項乃至7項)を規定します。介護保険法に基づけば、介護給付費の債権者は介護サービス利用者個人で、債権譲渡は認められていないことより:


  1. 介護事業者は、介護保険法に規定する代理受領権(代理権)に基づき、債権者(介護サービス利用者個人)を代理して、介護報酬を受領していると解されます。また、

  2. 介護事業者は金銭を受領した段階で、(x)介護サービス利用者個人に対する不当利得返還債務と(y)未払の介護サービス報酬請求債権を相殺していると解されます。



2.参考裁判例

必ずしも明らかではない介護給付費の性格について、次ぎの下級審判決が参考になると考えられます。

【参考裁判例①】
裁判年月日:平成27年4月24日
裁判所名:大阪地裁
事件番号:平26(行ウ)216号
事件名:取立金請求事件

本件は、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(注:自立支援サービスに関する法律で、介護保険法同様に、代理受領を規定します。)に基づく債権を差押えたX社が大阪府国民健康保険団体連合会に対して、差押命令に基づく差押債権の取立てとして差押債権相当額の支払を求めた事案で、差押権の有無が争点となりました。裁判所の判断は、代理受領の規定より、自立支援サービス事業者が債権を取得するものではないとし、X社は差押債権を有していないと判断しました。控訴審(平成27年8月8日 大阪高裁 平27(行コ)89号)でも同様の判断となっています。


【参考裁判例②】
裁判年月日:平成27年3月20日
裁判所名:東京地裁
事件番号:平26(行ウ)316号
事件名:療養費請求事件

本件は、医療マッサージを活用した訪問リハビリサービス等目的とするY社が自己の名前で療養費の支払を請求することができるか否かを争点としました。Y社は、高齢者の医療の確保に関する法律(“高確法”)第77条1項の規定(注:受領代理を規定します。)に基づき、遅延損害金の支払を求めましたが、裁判所の判断は、高確法第62条が、譲渡、担保提供及び差押ができないことを理由に、Y社の請求を棄却しています。


【参考裁判例③】
裁判年月日:平成20年2月22日
裁判所名:東京地裁
事件番号:平18(行ウ)173号
事件名:介護給付費不支給決定取消請求事件

本件は、介護保険法に基づく介護給付費の支給を申請し、不支給の決定処分を受けた後に死亡した被保険者(注:介護サービス利用者)の相続人が、同処分の取消を求める訴えについて、相続人の原告適格性を争点とするもので、裁判所は原告適格を肯定しました。


3.代理受領の場合の債権譲渡

代理受領を前提とした裁判例が散見されますが、仮に、代理受領を前提にすると、前述した一部の貸金登録業者等が行う介護事業者を譲渡人とする債権譲渡取引の実態は、復代理権の付与で、介護給付費債権は移転しないと解されます。



また、介護事業者が金銭を受領した段階で相殺可能となることより、その前に介護事業者が破綻する場合、偏頗行為と見做されて貸金登録事業者等の回収が否認される可能性があります。さらに、債権の譲渡がないことより、その債権譲渡取引は貸金と見做される可能性があり、その場合には、(x)貸金業法、(y)利息制限法、及び(z)出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(いわゆる“出資法”)の規制対象となると考えられます。


本稿は、介護給付費債権を基に修正加筆を加えています。